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当科での臨床研修
1. 目標と概要
奈良県立医科大学消化器内科学講座(消化器・代謝内科)は、幅広い知識と豊かな人間性を備え、かつ最新の医学・医療を推進できる医師の育成をめざしています。すなわち、十分な医学的知識・技量と真の「癒しの心」を持った信頼される内科医を育てることを教育目標としています。
当科では奈良県立医大附属病院において年間40000人を超す外来患者さん、1300人を超す入院患者さんを診療し、院内各診療科、関連病院との密接な連携のもとに消化器(消化管・肝胆膵)疾患、代謝性疾患の診療を担当しています。専門領域は、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肝臓、胆嚢・胆道、膵臓、糖尿病、生活習慣病ときわめて多彩で、プライマリケアから専門医療、最先端医療までを個々の患者さんのニーズに応じてバランス良く行うことをモットーとしています。 病棟では看護師さん、事務員さんとの協力連携を重視し、一丸となってチーム医療を実践しています。
当科では一般内科医としてのオールラウンドな経験を積み、患者さんのすべての問題に真剣に向き合う姿勢が専門医たる必要条件であると考えており、全国35以上の大学から熱心な卒業生が教室の理念に賛同して集まっています。和気あいあいとした雰囲気の中、スタッフは自らの仕事に対する誇りと責任を大切にしています。
当科の臨床研修システムの特徴を以下に列挙します。
- 1. 外来・入院診療に偏りなく従事することにより、消化器・代謝領域はもとより内科学全般を広く学ぶことができます。
- 2. マンツーマンの指導と診療グループの集団指導の組み合わせにより診断・治療の基本的考え方を学び、数多くの診療手技を身につけることができます。
教授回診に加え、症例検討会、臨床グループカンファレンス、肝生検検討会などで最新の専門的知識に基づく指導、科学的思考法、発表法を学ぶことができます。
- 3. 退院時サマリーの添削指導を通じて、論文執筆の基礎を学び、将来に備えることができ、症例報告や臨床研究などの学会発表を通じて、疾患の病態をさらに深く掘り下げる手法を学ぶことができます。
- 4. 日本内科学会、日本消化器病学会、日本肝臓学会、日本糖尿病学会などの関連学会には、それぞれ専門医制度がありますが、院内各科、関連病院との協力関係をもとに各専門医の資格取得に必要な症例を経験することができます。
- 5. 臨床を極める中に研究に対するモチベーションが生じ、意義のある臨床研究、さらに病態解明と新規治療をめざす基礎研究に従事することが可能です。
- 6. 臨床に従事しながら学位を取得することができ、専門医研修終了後はさらなる飛躍をめざして国内留学、海外留学をすることができます。
2. 前期臨床研修
1)必修内科としての消化器・代謝内科研修 当科にて初期研修を行う場合には、数週間程度の短期間では消化器、代謝の必須事項を習得するには不十分であり、できればある程度の期間を取った研修を勧めます。専門とする臓器は食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肝、胆、膵などと多彩で、対象疾患も多岐にわたるため、各自が受け持った疾患を全て一覧表にしており、担当する患者さんを決める場合は一覧表を確認しながら研修の間にできる限り多様な疾患を受け持てるように配慮しています。 研修医は先輩医師とペアで患者さんを受け持ち、主治医(指導医)とともに日々の診療にあたります。最初は5人程度の患者さんを受け持ち、診療上のすべての問題にじっくりと取り組み、実地経験から医師としての基本姿勢、症例の考え方を学びます。文献、教科書、参考書などを参照し、常に診療の妥当性のエビデンスを求めるととともに、問題点の抽出と解決に努めます。手技は段階を踏んで安全に確実に身につけて行くことが大切です。その後、修練を積めば7~8人の患者さんを受け持つことも可能であり、指導医と相談してください。回診やカンファランスでは受け持ち患者さんの経過、診療方針、問題点を簡潔に発表する技法を学びます。 退院サマリーは上級医とともに作成し、主治医、診療部長のチェックを受けます。また、研修期間中を通じて1人の指導医がつき、研修の進度や全般的な問題点をチェックします。
挨拶にも書いてありますが、診療グループごとに毎週カンファランスを行っており、毎週教授回診とそれに続く肝生検や肝癌カンファランスがあります。また、随時クリニカルカンファランス(CC)があり、これらのカンファランスで経験症例を提示し、診断治療面の問題点を討議します。 定期的に、主に下記のような研修医を対象としたレクチャーを行います。
・肝機能の読み方と鑑別
・慢性肝炎を見逃さない:診療の最新動向
・初めての消化器内視鏡検査:上達のこつ
・急性肝不全診療のポイント
・肝炎診療の新しい話題:NASH
・やさしい黄疸の鑑別:専門医にいつ送るか
・肝癌診療の最前線
・腹水の病態、診断、治療
・実践的腹部エコー検査
・肝硬変はこう診る
・君ならどう考える?胆膵疾患の診断治療
・吐血、下血、黒色便にはこう対処する
・胆膵領域における内視鏡診療の進歩
・消化管の治療内視鏡:up to date
・上部消化管の内視鏡診断のコツ
到達目標 (とくに当科での研修に関係深い項目を抜粋します)
1. 診療録(退院時サマリーを含む)をPOS(Problem Oriented System)に従って記載できる。診療計画(診断、治療、患者・家族への説明を含む)を作成できる。
2. 外来患者、入院患者の診療の過程において全身倦怠感、体重減少、体重増加、食欲不振、黄疸、発熱、嘔気・嘔吐、胸やけ、嚥下困難、腹痛、便通異常(下痢、便秘)などの頻度の高い症状を経験し、診療計画(診断、治療、患者・家族への説明を含む)を作成する。(下線の症状についてはレポートを提出)
3. 尿検査、便検査、血液検査の適応が判断でき、結果の解釈ができる。消化管内視鏡検査、腹部超音波検査を診察に活用するとともに、後者については自ら経験する。
4. 基本的手技として注射法(皮内、皮下、筋肉、点滴、静脈確保、中心静脈確保)、採血法(静脈血、動脈血)、穿刺法(胸腔、腹腔)を実施できる。また胃管の挿入と管理ができる。
5. 心肺停止、ショック、意識障害、急性腹症、急性消化管出血、誤飲、誤嚥などの緊急を要する症状、病態を経験する(下線については必須)
6. 外来患者、入院患者の診療の過程で下記の疾患、病態を経験する。
消化器系疾患
(1)食道・胃・十二指腸疾患(食道静脈瘤、胃癌、消化性潰瘍、胃・十二指腸炎)
(2)小腸・大腸疾患(イレウス、急性虫垂炎、痔核・痔瘻)
(3)胆嚢・胆管疾患(胆石、胆嚢炎、胆管炎)
(4)肝疾患(ウイルス性肝炎、急性・慢性肝炎、肝硬変、肝癌、アルコール性
肝障害、薬物性肝障害)
(5)膵臓疾患(急性・慢性膵炎)
(6)横隔膜・腹壁・腹膜(腹膜炎、急性腹症)
(7)糖代謝異常(糖尿病、糖尿病の合併症、低血糖)
(8)高脂血症
高齢者医療
(1)高齢者の栄養摂取障害
(2)老年症候群(誤嚥、転倒、失禁、褥瘡)
7. 緩和ケアや終末期医療を必要とする患者とその家族に対して、全人的に対応し、告知をめぐる諸問題を配慮するとともに、緩和ケアに従事し、必ず、臨終の立ち会いを経験する。
2)2年目選択科としての消化器・代謝内科研修 消化器・代謝疾患を中心に、より踏み込んだ研修を受けます。必修内科研修の場合と同じように先輩医師とともに患者さんを受け持ちますが、症例数は希望に応じて7~10例を目標とします。1年次の必修内科において既に当科での研修経験がある場合は上級医とともに患者さんを受け持ち、その指導下に後輩医師とともに診療にあたります。一般的な疾患については診療の様々な局面において自ら医療上の判断を下せるように、さらに上級医の見守りのもとに患者さんやご家族への十分なインフォームドコンセントができるように修練を重ねます。受け持った症例について主治医と同様に十分に問題点を分析でき、必要に応じて学会で症例報告ができるまでのレベルを目指します。 さらに、2回目の選択研修では消化器内視鏡検査、治療の手ほどきを受けます。定められた指導指針に従って、段階を追って経験を重ね、スキルアップを図ります。腹部超音波検査は内科医、総合診療医にとっても必須の手技であり、少なくともスクリーニング検査で異常を拾い上げることができるようになるまで、研修を積みます。
将来内科系を目指す場合は、内科専門医取得のために必要な症例の一部を初期研修で経験した症例の登録が可能となっています。消化器・代謝領域で内科専門医登録に必要な症例について指導医と共にJ-Osler登録状況を確認しながら不足している疾患などを優先して担当してもらうような工夫も行います。
3.後期臨床研修〜大学院
新内科専門医制度では3年目では基盤領域である内科研修を行い、その後サブスペシャリティー領域の研修を内科専門医研修と並行しながら行うことが可能となっています。内科専門医はプログラム制ですので3年間の研修期間で所定のプログラムを経験することになります (内科学会HP参照)。一方、消化器症学会専門医、肝臓学会専門医、消化器内視鏡学会専門医などのサブスペシャリティー領域は全てカリキュラム制となっています。これらの専門医は各自のペースに応じて経験症例を順次積み上げていくシステムです。当科は希望すればこれら全ての専門医を最短期間で取得できるように工夫した研修を行います。
具体的には最初の半年〜1年間は原則大学病院での研修となります。新専門医制度に対応するため、希望すれば他内科での研修も行なうなどサブスペシャリティー専門医の早期取得も見据えた研修となります。大学での勤務の間に内科専門医取得のためJ-Oslerに登録する他領域の症例経験が不足している場合は該当科と相談して症例を経験させてもらい十分な症例が登録できるようにします。 症例経験進捗状況にもよりますが、後期研修2年目以降は数カ所の関連病院 (研修指定病院)での研修となり、外来診療も行います。この間に内科専門医申請に必要な症例の経験はもちろんのこと、消化器内科医として上部消化管内視鏡検査、腹部超音波検査、腹水穿刺排液、超音波ガイド下経皮肝生検、ED tube、イレウス管挿入術等は習得が可能で、ラジオ波焼却療法、内視鏡的胃粘膜剥離術、内視鏡的逆行性膵胆管造影、内視鏡的総胆管結石截石術、内視鏡的大腸ポリープ切除術、内視鏡的止血術、内視鏡的食道静脈瘤結紮術、経皮内視鏡的胃瘻造設術などの、高度専門医療手技も多数経験できます。
大学での研修期間中に上部、下部消化管内視鏡検査、腹部超音波検査を1人でできることを目標とします。さらに、4年目以降市中病院での勤務を行う際に困らないよう以下の項目についても指導を受けます。
1.上部・下部消化管内視鏡、消化管造影、血管造影、CT、MRI、ERCP、超音波内視鏡など各種画像診断の読影ができる。
2.指導医とともに上部、下部消化管内視鏡治療を施行できる。
3.肝機能検査などの血液検査成績から自力で肝疾患の鑑別診断、原因診断、病期判定、治療選択ができる。
4.検査所見から糖尿病の病態を把握し、個々の病態に応じた治療戦略を構築できる。
5.院内外のカンファランスで経験症例を発表し、問題点を自ら分析するとともに、積極的に学会・研究会で上級医の指導のもと症例報告を行う。
4年目以降は急性期病院と一般診療病院であらゆる疾患に対応できる臨床力を習得します。多数の入院症例を経験し、外来でのプライマリケアの上達と検査、治療手技の習得を目指し、原則として当科関連の指導施設での学外研修を進めます。ここでは1人で多数の患者さんの主治医となり、自らの判断で各種疾患の診療を行えるように修練を積みます。それぞれの関連病院には特質がありますので、得られる経験も異なります。小規模な関連病院に勤務した医師については大規模な関連病院での診療経験も積ませ、総合的にスキルアップを計る方針です。 挨拶にも書きましたが、関連病院で臨床技術を磨くと共に専門医取得に十分な症例を経験した後は原則として全員一度大学に戻り、基本的には医局員の先生全員に若いうちに学位を所得してもらうことを考えています。海外留学希望が強い場合などは早いうちに学位を取得した方が良いと考えますので、早い時期に大学に戻って研究を開始します。当科の大学院は基礎研究のみを行い、臨床から全く離れてしまうのではなく、負担のない範囲で臨床業務を行います。学位取得後は本人の適性、希望に即した進路決定(当科関連病院への出向、国内および海外留学、大学で診療、研究の続行)という流れを原則としています。 新専門医制度ではこれまでと異なり基盤領域の専門医取得が必修となりますので、専門医資格は全員が持っていることになります。学位制度に関しても大学院以外で学位を取得するいわゆる「論文博士」の制度が文部科学省の方針で廃止となりますので大学院で学位を取得することは将来を考える上で大きなメリットに繋がると考えられます。
奈良県は山間部が多いため、イメージとして関連施設には交通の不便な地域が多いのではないかと心配する研修医もいますが、当科の関連施設はそのようなことはありません(関連病院参照)。全ての関連施設が近鉄などの鉄道沿線に近く大学病院から1時間以内で移動が可能です。奈良県に加えて大阪府堺市や八尾市など奈良県と接した地域にも関連施設を有していますので本人の希望に合った勤務形態が可能となっています。
また、新専門医制度において「日本専門医機構認定の内科系サブスペシャリティー専門医は原則上限2つまで」という方針があり、「消化器病専門医を取得後は肝臓専門医か消化器内視鏡専門医のどちらかを選ばないといけないのでは」と不安に感じていた研修医もいました。令和4年5月20日の日本専門医機構理事会において、消化器領域については「例外として、肝臓専門医と消化器内視鏡専門医など補完領域の資格は資格数として加算しない」ことが決まりました。つまり、消化器領域は内科系で唯一日本専門医機構から認められている3つのサブスペシャリティー機構専門医を取得できることが正式に決まりましたので安心して下さい。
奈良県は他の都道府県と異なり糖尿病科を標榜している施設が少ないため、総合医療センター、西和医療センター、南奈良総合医療センターをはじめとして多くの病院では当科の医師が糖尿病を診療しています。糖尿病患者は癌を合併することが多いことは広く知られています。また、最近の研究から日本人の2型糖尿病患者の死因は肝癌などの慢性肝疾患(多くは脂肪肝に合併した非アルコール性脂肪肝炎 NASHと考えられています)が最も多いことが明らかとなり、肝臓学会と糖尿病学会が合同で研究会を立ち上げるなど注目が集まり、世界中で精力的に研究が始まっています。このような現状を考えた場合、糖尿病を診察する上で、癌のスクリーニング技術を含めた一般内科診療の知識をもつことは全人的医療を行う上で非常に重要であると思います。当科では、消化器診療に加え糖尿病・代謝疾患についてもしっかりと身につけたい医師には、将来糖尿病専門医を取得可能なように、後期研修のうち半年程度を当院の糖尿病センターを中心として勤務して、より深く糖尿病診療を学んでもらいます。市中病院では多くの糖尿病患者さんを診療しますので、消化器診療に加えて幅広い症例を経験してもらい内科医としての総合臨床力を習得します。
当科では教室と関連病院群が協力しあって医師を育てていく体制を取っています。医局と各関連病院はあくまで自由契約関係で結ばれており、一方が他方に依存するものではありません。医局はあくまでボランテイアとして非営利的に医局員である医師と関連病院の希望を調整する役割を担っています。医師と関連病院はそれぞれが自己責任のもとにレベルアップを計り、信頼される医師、魅力的な病院であり続けるよう努力しなければならないと考えています。関連病院同士の密接な連携は日々の診療で実践していますが、さらに定期的に関連病院集談会を開催して、症例検討や共同研究を進めています。過去の症例検討の貴重な成果は 「症例を考える」「症例を考える part2」という2冊の本(奈良医大附属図書館に収蔵)にまとめており、当教室の関連病院において専門分野を含む非常に多彩な症例を経験できることがわかります。
新専門医制度では同様に多くの内科で学位を取得するケースが増えてくると思われます。しかし学位取得後の働き方には診療科により大きな違いが出てきます。将来の専攻科を決める際は医師としての大半を占める学位取得後の勤務についてよく考える必要があると思います。多くの医師の場合、学位取得後は市中病院を中心とした勤務形態となります。1人〜2人の常勤医で診療が可能な診療科では医師としての長い期間を個人単位で診療を行っていくことになります。一方、消化器内科は内視鏡治療を始めとしてチームでの治療手技が多いため、5名以上のチーム単位で各病院に勤務しています。この場合は将来にわたって上級医からの指導を受けられると共に専攻医などの指導を行うなどお互いに刺激を受けながらの勤務医生活を送ることができます。また、消化器内科の手技は内視鏡やエコーを用いたものが多いため自分が取得した技術を市中病院で生涯にわたって発揮することができます。この点は消化器内科の大きな特徴であると思います。即ち、最先端の手技を基幹病院で学んでも市中病院でその施設や機器がない場合は折角最先端の技術を習得しても十分な力を発揮することができない可能性があります。内視鏡やエコーの装置はほとんどの病院にありますので、消化器内科医はずっとやりがいを持って取得した技術を生かした仕事が継続できるというメリットがあります。奈良県はこれまで消化器内科医が不足してため消化器専門以外の医師も内視鏡などの検査を行っていた経緯があります。しかし新専門医制度では専門医資格の有無がこれまで以上に要求されますので、内視鏡検診などは将来的には内視鏡専門医でないと行えなくなる可能性があることから将来を見据えた診療科選択が必要となります。