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教授挨拶
患者の皆様へ
当科は消化管、肝胆膵といった消化器疾患を中心に糖尿病を含めた代謝疾患を対象として診療を行っております。附属病院において、年間30,000人以上の外来患者さんを診療し、1,000人以上の新しい入院患者さんを関連病院との密接な連携のもとに、奈良県はもとより他府県からも多数受け入れています。教室の第1の目標は十分な医学的知識・技量と真の「癒しの心」を持って患者さんに信頼される医療を行うことにあります。外科、放射線科など関係科との定期カンファレンスをいくつも行っており、1人1人の患者さんに対する最適な治療を診療科の枠を越えて考えるようにしています。
肝疾患では肝炎ウイルスに対する最新治療に加え、生活習慣病の増加にともなって患者さんの数が増えている非アルコール脂肪肝炎 (NASH)に対する治療も栄養士、薬剤師など多職種との連携のもと生活指導を含めて積極的に行っています。このNASHという病気は糖尿病などの生活習慣病に非常に高い割合で合併することが知られている「悪玉脂肪肝」であり、肝硬変から肝臓がんへ進行することが明らかとなっています。当科は現在日本肝臓学会、日本消化器病学会の診療ガイドラインで採用されている治療法を世界で初めて提案するなど最新の治療法を積極的に取り入れています。糖尿病患者さんの亡くなられる原因は、実は肝疾患によるものが最も多いことが日本における疫学調査でわかり、脂肪肝を持っておられる方の70%近くがNASHであるとされておりますので、検診などで脂肪肝や耐糖能異常を指摘された方は一度当科を受診して専門家による判断を受けて頂くことをお勧めします。その他、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性肝硬変などの自己免疫性肝疾患は全国でも有数の症例経験を有しており、肝硬変に対するさまざまな合併症、肝細胞がんに対する治療においてもラジオ波焼灼療法や新規分子標的治療薬を含めた抗癌剤による治療を多数行っています。
消化管では食道から大腸まで良性疾患、悪性疾患を問わず広く治療しており、各種内視鏡的治療や薬物療法を最新の技術、方法を用いて年間多くの治療を行っています。近年患者さんの数が増加している潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患も消化器外科と連携を取りながら診療を行っています。
胆嚢や膵臓の疾患についても、消化管と同じく急性疾患から慢性疾患まで最新の機器を用いて患者さんの負担の少ない治療を行っています。
抗癌剤による化学療法もあらゆる消化器系腫瘍に対して患者さんそれぞれの状況に応じて、患者さんとの話し合いのもとに多数行っています。患者さんの生活の質を重視し、可能であれば当院の腫瘍センターと連携して外来で通院しながら化学療法を行うなど様々な取り組みを行っています。
当科では患者さんの目線に立って各分野における最先端の医療をしっかりとしたインフォームド・コンセントのもと患者さんに応じた最適の治療を行うように心がけております。地域連携室を介してご予約をお取り頂きますと初診時の待ち時間が少なくなりますので、お近くの先生とご相談して受診してください。
医療機関の先生方へ
当科は関連病院との密接な連携のもとに消化器 (消化管・肝胆膵) 疾患、代謝性疾患などについて臨床各科と協力しながら幅広い診療を行っています。奈良県における中核病院としての役割を果たすとともに、地域医療にできるだけ貢献することを目標としています。急性期消化器疾患に対しても腹部救急ネットワークを介して先生方からのご依頼を全例受け入れることを基本的方針としております。
肝疾患に関しては、各種新規薬剤の治験を含めた最新治療を提供しております。例えば、C型肝炎では、肝生検などの詳細な検討を行った後、患者さんに最も適した治療法を選択し、地域連携室を介してご紹介頂きました先生と病診連携を行ないながら診療しています。近年、患者数の増加に伴い大きな問題となっている非アルコール脂肪肝炎 (NASH)に関しても、生活習慣病関連は主治医の先生にフォローして頂きながら、当科では肝病変の進展予防について各種コメディカルと連携しながらチームで診療させて頂いております。糖尿病患者さんの亡くなられる原因は、実は肝疾患によるものが最も多いことが日本における疫学調査でわかり、脂肪肝を持っておられる方の70%近くがNASHであるとされておりますので、検診などで脂肪肝や耐糖能異常を指摘された患者さんがおられる場合は、是非一度当科に紹介して頂きたく思います。
自己免疫性肝疾患は全国有数の症例経験を誇っており、肝硬変に対する静脈瘤、腹水などさまざまな合併症や、肝細胞癌に対する治療においてもラジオ波焼灼療法や抗癌剤による治療を多数行っています。
消化管、胆膵疾患についても積極的に内視鏡的治療、抗癌剤治療を行っています。悪性疾患の治療法に迷われた場合など一度当科へ相談して頂ければ、当科で超音波内視鏡を含め詳細な検討を行った後に、毎週行っている消化器外科、放射線科とのカンファレンスに提出して外科治療が必要であれば速やかにご紹介させて頂くなど迅速な対応を心がけております。抗癌剤治療もあらゆる領域について行っており、最新のエビデンスに基づいた治療について、外来化学療法を利用するなど患者さんのQOLに配慮した治療を行っています。
また、上部消化管の精密検診についても対応し、結果を速やかにお返しできる体制を整えています。各種良性疾患に関しても広く対応させて頂いております。潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患も生物学的製剤を含めた的確な治療を消化器外科と連携を取りながら診療を行っています。
いずれの場合も、当科では大学で必要な治療のみ行いながら、普段の通院はご紹介元で継続して頂くように積極的な病診連携のもと診療を進めて行きたいと考えておりますので、当院地域連携室を介して御気軽にお声をかけて頂きますようお願い申し上げます。
学生・研修医の皆様へ
教室の第1の目標は十分な医学的知識・技量と真の「癒しの心」を持って患者さんに信頼される医療を行うことにあります。癒すのは「病」ではなく、「病に苦しむ人」であることを十分に理解した人間性に優れた医師を養成することを目標としています。患者さんに最高の医療を提供するために、外科、放射線科など関係科との定期カンファレンスをいくつも行っており、1人1人の患者さんに対する最適な治療を診療科の枠を越えて考えるようにしています。
当科は附属病院において、年間30,000人の外来患者さんを診療し、1,000人以上の新しい入院患者さんを奈良県はもとより他府県からも多数受け入れています。奈良県における中核病院としての役割を果たすとともに、地域医療にできるだけ貢献することを目標としています。急性期消化器疾患に対しても奈良県腹部救急ネットワークを介して全例受け入れることを基本的方針としており、多くの大学病院と異なり、ほぼ毎日緊急内視鏡検査をはじめとした救急患者の診察を行っています。
大学では市中病院に比べてきめ細やかな研修が受けられないのではないか、と心配する学生がいますが、決してそのような事はありません。当科では研修医を含む全医局員を3つの臨床グループに任意に分け、各グループで症例検討会を毎週行っています。1例ずつ時間をかけて問題点を検討し治療方針を討議しており、研修医に一例ずつ問題点を列記してもらい、グループ内の他の指導医の意見なども採り入れつつ、診断・治療方針の組み立て方について詳細な指導を行っています。「三つ子の魂百まで」と言いますが、内科医にとって初期研修の段階において論理的思考力を養成することはとても大切であると考えています。経験症例数を金科玉条の如く考える傾向がありますが、単に症例をこなすのではなく、臨床診断に当たっては、しっかりとした病歴の聴取と身体所見の把握が重要であり、得られた情報から何を考え、どのように鑑別診断を行い、対処するかという基本姿勢を学べるように指導しています。前期研修医に対しては、消化器・代謝領域で頻度の高い疾患や処置を実際に経験することを通じて、これらの領域に対する一般的なマネージメントの習得と、より高度な専門的医療が必要とされる症例に遭遇した場合、専門医へ適切なコンサルトができるように指導しています。後期研修医には特定の領域に偏らないより多くの症例を経験させると共に、専門医として要求される多岐にわたる手技を習得できるように指導しています。研修医には一つ一つの症例を丁寧に診て、疾患の本質を究めていく体験を通して興味を深めるとともに、責任をもって難治性疾患患者を最後まで診る厳しさを体験してもらいたいと考えています。このようにして、一般内科医としての知識、技術に加え、それぞれの分野において高い専門性をもった診療レベルが身につくように指導しています。
内科専門医を始め様々なサブスペシャリティ資格を円滑に取得してもらうために、関係する学内の内科学講座などと密接に連携して、効率的でかつ柔軟なプログラムを工夫しています。
消化器内科は内視鏡をはじめ多くの技術を学ぶことが出来ます。一般診療において消化器疾患の占める割合は非常に多く、消化器に関する技術は多くの一般病院で必要とされているものです。言い換えれば、それぞれが高い専門性を有しているにも関わらず、ほとんどの病院で長い間にわたって習得した技術を生かせるという強みがあります。仕事の質は生活の質にもつながります。専門的医療が高度化し、大学や基幹病院で頑張って技術を習得しても一般病院では機器の問題などで行うことが難しいケースが少なくない中で、やりがいのある仕事を長く行えることは医師生活の質を考える上で非常に重要であると考えます。
しかし、技術のみに強くこだわることは医師として決して良いことではないと思います。最近は専門医指向が極めて強い傾向にあり、学位に対し興味を示さない研修医が増えていると言われています。個人的にはこの傾向はあまり好ましくないと考えています。一人前の臨床医になればなるほど、現実の臨床での限界に直面することになります。この壁を越えてこそ、真の臨床医になれるのではないでしょうか?多くの医師は医学部卒業後、平均して約40年さまざまな分野で働くこととなります。医師としての人生を40年間のスパンで考えた場合、最終的に優れた臨床医になるためにはしっかりとした指導のもと科学的思考を身につける必要があると考えています。確かな科学的思考を身につけるためには、適切な指導者のもと、一定の期間研究を行うことが必要です。我々は臨床医である以上、研究のための研究ではなく、全ての研究は患者さんに還元することを目標にしています。基礎研究については、肝疾患を中心として疾病の本態を理解し、それに立脚した新しい診断法・治療法を開発するという近い将来直接的に臨床へ還元できる研究と、目先の成果にとらわれず、比較的長いスパンで将来を見据える地道な研究をバランスよく組み合わせていくことが重要であると考えています。基礎研究に加えて、患者さんのデータを整理して将来の治療に結びつける臨床研究も非常に重要であり、あらゆる分野における臨床研究を当科は積極的に行っています。臨床研究は、基礎的研究により得られた成果を臨床へと展開していくトランスレーショナルリサーチと共に、患者さんから得られた情報をもとにして将来の治療に結びつけ、さらなる治療効果の向上を目指していくことを目標にして多くの臨床研究を行っています。
消化器内科のススメ
「初期研修後どの診療科を選択するか」に関しては平均40年とされる長い医師生活において生涯にわたってやりがいのある仕事をできる診療科を選択することが重要になります。「学生・研修医の皆様へ」の挨拶にも書きましたが、医師はどの診療科であっても仕事の性質上どうしても仕事の時間が他の職業よりも長くなる傾向にあることから「仕事の質は人生の質」に繋がります。そのため一番大切なことは自分が本当に興味のある分野を選ぶことです。しかし、それだけでは最初の10年は楽しく仕事をできても残りの30年毎日単調なことの繰り返しになってしまうリスクもあると思います。これから大きく変わる医療と時代の変化を個々のニーズに合わせてしっかりと把握して進むべき道を選択することが求められると思います。
「学生・研修医の皆様へ」の挨拶で学位制度が大きく変化したことを述べました。新専門医制度では基盤領域の専門医が必須となり全員が専門医を取得しますのでこれからは同様に多くの内科で学位を取得するケースが増えてくると思われます。しかし学位取得後の働き方には診療科により大きな違いが出てきます。将来の専攻科を決める際は医師としての大半を占める学位取得後の勤務についてもよく考える必要があると思います。多くの医師の場合、学位取得後は市中病院を中心とした勤務形態となります。1人〜2人の常勤医で診療が可能な診療科では医師としての長い期間を個人単位で診療を行っていくことになります。一方、消化器内科は内視鏡治療を始めとしてチームでの治療手技が多いため、5名以上のチーム単位で各病院に勤務しています。この場合は将来にわたって上級医からの指導を受けられると共に専攻医などの指導を行うなどお互いに刺激を受けながらの勤務医生活を送ることができます。また、消化器内科の手技は内視鏡やエコーを用いたものが多いため自分が取得した技術を市中病院で生涯にわたって発揮することができます。この点は消化器内科の大きな特徴であると思います。即ち、専門的医療が高度化し、大学や基幹病院で頑張って技術を習得しても一般病院では機器の問題などで行うことが難しいケースが少なくない中で、やりがいのある仕事を長く行えることは医師生活の質を考える上で非常に重要であると考えます。内視鏡やエコーの装置はほとんどの病院にありますので、消化器内科医はずっとやりがいを持って取得した技術を生かした仕事が継続できるというメリットがあります。奈良県はこれまで消化器内科医が不足してため消化器専門以外の医師も内視鏡などの検査を行っていた経緯があります。しかし新専門医制度では専門医資格の有無がこれまで以上に要求されますので、内視鏡検診などは将来的には内視鏡専門医でないと行えなくなる可能性があることから将来を見据えた診療科選択が必要となります。
女性医師の場合、出産、育休後の復帰についても進路選択の上で重要な要素となります(当科の出産後支援システムは「ママさん先生へのメッセージ」をご覧下さい)。子育てが一段落して復帰を考えた時にどれだけの需要があるかは給与面などに大きく影響してきます。単に外来診療をこなすだけの医師ではなく、内視鏡検査や造影超音波検査などのスキルを持っていれば本人の希望に合わせ半日から都合の良い曜日だけの勤務など個々のケースに応じた勤務形態に病院が合わせてくれます。現在でも多くの市中病院や検診施設で内視鏡などを行う医師は極端に不足しており医師派遣が全く追いついていない状況です。胃癌検診もこれまでのバリウム造影検査から精度の高い内視鏡検査に厚生労働省が方針を変更しました。奈良県では消化器内科医数は全国で46位と絶対的に不足しており「市中病院で広く長く使える」技術を持った消化器内科医の需要は今後ますます高まっていくと思われます。
今後医療分野においても人工知能(AI)が急速に進歩することが予想されています。画像診断などはクラウドを利用するなど今後様々な領域でAIに置き換わっていく可能性が高いと考えられています。内視鏡分野でも画像診断に関しては10年以内に多くがAI診断になっていくと思われます。しかし内視鏡治療や超音波検査は決してAIに置き換わることはありません。全身麻酔での手術などは患者さんの位置が治療中固定されますので、ダヴィンチ、3DプリンターとAIを組み合わせることで「ゴッドハンド」が再現できる可能性が指摘されており、5Gなどの通信技術の進歩により遠隔手術も可能となるとされています。一方、内視鏡治療や超音波検査は多くの場合患者さんが覚醒した状況で行いますので人間による臨機応変な対応が必須となることから消化器内科で覚えた手技がAIに取って代わられることはないとされています。
現在どの領域の医師が比較的充足しており今後どの領域の医師が必要とされるか、ということも進路を決定する上で非常に重要です。多くの専攻医はprimary careを含めたgeneralな診療が出来る医師になることを希望しています。そのなかで内科は診療の基本であり、特殊なケースを除いて「内科のない病院は存在しない」ことからもわかるように内科的知識を身につけておくことは今後40年間診療を行う上で有利になります。専門医制度において内科のサブスペシャリティーは多数に分かれており領域により患者数は大きく異なります。一般内科診療において消化器疾患の占める割合は非常に多くなっており、救急対応を含め市中病院でのprimary careを含めた診療に消化器疾患への対処能力は必須であると言えます。
また、今後日本は超高齢化社会に突入していきます。年齢別の死亡原因において60歳以上では圧倒的に悪性腫瘍が多くなっています。男女とも様々な腫瘍が原因となっていますが、消化器系の癌を合わせますと男女ともに半数を占めていることがわかると思います。即ち市中病院での診療においてもがん診療を避けることはできない時代となっていくなかで消化器癌の知識を持っておくことは今後重要になってくると思います。当科では早期の内視鏡的治療から全国でも有数の治験症例数を含めた最新の抗癌剤治療、緩和ケアに至るすべてのがん診療において十分な知識と経験を有した医師による指導を行っています。
生活習慣の変化によって日本人に肥満が増えてきています。肥満は糖尿病とも深く関係しており我が国においても糖尿病患者の増加が大きな問題となっています。人間ドックを受けた約25% に糖尿病(耐糖能障害)が見られますが、実は肥満と肝機能障害は並行してさらに増加しており最近では3人に1人が肥満で肝機能障害を有することが明らかとなっています。この多くは脂肪肝とされ、糖尿病を合併した場合は8割が進行性の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)であることが明らかになり生活習慣病におけるNASHの重要性が指摘されています。平成の初めにC型肝炎ウイルスが発見され、平成の終わりと共に治療の進歩によりC型肝炎ウイルスはほぼ排除できるようになりました。このため一部には「肝臓病には未来がない」という勘違いをする専攻医がいますがこれは大きな間違いです。日本肝臓学会の最新の全国調査ではウイルスに関係しない「非B非C型肝硬変」が4割を占めていることが明らかとなっています。「後期臨床研修」のところでも述べたように、今後「糖尿病と肝疾患」の領域は生活習慣病の増加に伴いますます一般診療において重要な分野になってくると思われます。肝臓は全身における代謝の中心であり、肝臓の働きと同じレベルの工場を作る場合東京ドームと同じ広さが必要になると言われています。内視鏡を中心とした手技に加えてまだまだ未知のことが多い肝疾患の領域を学ぶことで理論的思考が身につき、教科書に書いていない症例に遭遇した際に科学的根拠に基づいて冷静に対処できる能力が獲得できるようになります。
当科は経験豊富な指導スタッフがそれぞれの分野で充実しており、また研究体制も整っており、ここでしか学べないこと、経験できないことが数多くあります。当科のスタッフは「人を育てることが何よりも大切である」という考えのもと、若いドクターを指導しています。一人ひとりが充実感を持って仕事ができるように、相手の立場を尊重しながら、one for all, all for one の気持ちで教室員は日々診療や研究に携わっています。教室の姿勢に共感していただけるできるだけ多くの方々に加わっていただきたいと思いますのでお気軽にメールなどでご相談下さい。